いちご
レゴラス王子に好きだと言われてから2日。
あたしははっきり言って、返事を出来るような状態では無かったし、彼の気持ちを受け取るような元気もなかった。
あの時言われた瞬間は、ただビックリしたのとショックを受けていたのとで、訳がわからないまま終わったけど、
彼もあたしは混乱状態にいたのを知っていたのだろう、それから決してあの時の事は話さなかったし、むしろ何となく避けられている様な気もした。
それでもあたしはまだ混乱状態だ。
アラゴルン様にフラれた事はすぐ言ったけれど、レゴラス王子に告られただなんて、親友にもやすやすと言える事じゃない。
もしかしたら、相手はただ慰めて言っただけかもしれないし、ただの自惚れかもしれない。
・・・でも気になる理由は ただひとつ。
あの時 彼は、あたしにキスをした。
泣きやまないあたしを抱き込んだ彼は、あたしをベッドに押して、顔を近づけて来た。
涙で視界さえ見えなかったあたしは、されるがままに唇を押しつけられ、数秒後 彼はゆっくりと顔を離し、部屋を出て行ったのだ。
「だからってなぁ〜・・・もしかしたら、動物のチューとおんなじ様なもんかもしれないし・・」
「・・・・・かもね」
午前9時。あたしの部屋。
「あたしが最近悩みすぎている」という理由で、今日の朝、部屋に押しかけてきた親友のにとうとう口を割らされて、全部話した。
彼女は意外にも冷静で、ただ黙ってあたしの話を聞いて頷くだけだった。
「だってレゴラス王子って、今までものすごくあたしに冷たかったんだよ?ありえなくない?いきなり好きとかゆってくんの」
「知らないわよ。そういう方だから。前から好きだったんじゃない?」
「レゴラス王子がぁ??あたしをぉ??・・・何か実感わかないよ」
「・・・ってゆうかさ、さ。アラゴルン様にフラれたのに、随分平気そうよね」
うう〜〜んと首をかしげたあたしに向かって、は異様な程冷静な声でそう聞いた。
「・・・・・平気、に見える・・・かなぁ」
「あんなに好きだったのに。悲しそうにしてたの最初だけだったし」
「・・・・そっかな、良いことかな、じゃぁ」
「嬉しかったんじゃないの?レゴラス様に告られて。結構心移りが早いのね」
怒ってる。
あたしは、の静かな声と黙り込んだその顔を見つめながらそう思った。
「・・・ねぇ何で怒ってんの?あたし何ゆった?」
「・・だってアンタの話、自慢話にしか聞こえないから」
「自慢?何で?」
「嬉しかったんでしょ?王子なんかに告白されて。望んでもないってのにさ。しかもキスまでされたって事をあたしにまで言う神経ってすごいよね」
の顔は、完全に「鬱陶しい」というオーラで包まれていた。
「全部話さないと絶交〜とかゆったの、じゃなかったっけ?」
「・・・・もういいよ、出てく」
「逃げんの?」
「・・・・マジ絶交」
はそれだけ言うと、本当に出てってしまった。
あらららら、と、自室に一人取り残されたあたしは、何ていうかもう・・・ただまた座り込んで黙るしか出来なかった。
はレゴラス王子を好きだったんだろうか。
キスされた事まで話したあたしは、すごく無神経だったのかも。
ってゆうか、あたしさ。十年以上好きだったヒトにフラれて平気そうに見えた訳?ンな訳ないし。
ヤキモチとか?・・・・ありえない。・・・・・ウザイ。
そんな言葉があたしの頭に浮かんだ瞬間、あたしは自分の心の黒さにゾッとした。
でも今現在あたしが、アラゴルン様にフラれて辛いのは事実だ。
それを分かってくれずにいたにすごく嫌気がさした。
フラれた瞬間 告白してきた王子にすらイライラした。
何が原因って、結局あたしにアラゴルン様に見合う程の魅力が無かっただけ。それだけだ。
・・・・・それでも今は、上手くいかない全ての事が、ヒトのせいだとしか思えなかった。
それくらいあたしは そういう女で、そういう性格なんだと、分かっていた。 ずっとずっと、そうだと知っていた。
子供だった。 それだけだ。
「レゴラス王子、お早う御座います」
「・・・!、おはよう」
次の朝。珍しく、あの例の庭にいたレゴラス王子をすばやく見つけたあたしは駆け寄って声をかけた。
いつも居た場所なのに、最近居なかったのはきっと、あたしと会いたくなかったからだろう。
あたしは黙った王子を見つめながらそう思った。
「・・・・あの、その。すいませんでした・・3日前。・・・・アラゴルン様の事」
「・・・ううん。気にしないで」
「それで・・・・その・・」
「・・・・ごめんね?急にキスなんかして。戸惑ったよね」
口ごもったあたしに、王子はいつもの笑顔でサラッとそう謝った。 あたしは何となく拍子をぬかす。
「あの、いえ、別に・・大丈夫だったんですけど、・・ってゆうかあたしまず基本的にもうおかしかったんであの時。何が何だかって感じで・・」
「うん。そうだと思う。あんな時に言うべき事じゃなかったかな。でも、今言うべきだと思ったんだ。あの時は」
「・・・・・王子、あの・・・」
「好きだよ。君の事。普通に。女として。欲しいと思ってる」
「・・・・・・え」
何事も無いように、淡々と普通の会話をするようにそんな事を言う彼に、あたしは大口を開けてポカンとする。
「ごめん。あの時も、止められなかったんだ。泣いてる君は可愛いし、僕に必死でしがみついてくるしで。」
「す、すみませ・・・・で、でも、何であたし・・!?」
「・・・・ヒトを好きになる事に、理由なんている?・・・あぁ、君の場合、いるんだろうけど」
「・・・あたしの場合?・・・・どうゆう事ですか」
「・・・だって。アラゴルンの事何で好き?って聞いたら、「いかにも」っていう答えをいっぱい返してくれたから。
だからちょっと思っただけ。「この子はヒトを条件付きで好きになるタイプなのかなー」って」
王子はただそう言った。
ものすごく事実のようにも聞こえたし、ものすごく失礼な事を言われた気もした。
「・・・だからって、君が僕の中にその「条件」を見つけるだろうなんて思ってなんかないよ。期待もしてない」
「あたし、王子の事よく知りません。むしろ、全然わかりません」
「フ、全部知られたりしたら、むしろ嫌われそうだから。僕の事なんて知らなくていいですよ」
王子は笑った。 普通に笑った。
そのひとつひとつの笑顔があたしの心をチクチクと突き刺したが、何も言えなかった。笑えなかった。
「・・・あたし、アラゴルン様の事 今も好きです」
「当たり前だよ。君が2,3日で十何年以上好きだった男を嫌いになる様なヒトなら、幻滅する」
彼があまりにも「幻滅」という言葉を普通に使ったので、あたしは少し心が怖じ気づいたのを感じた。
何なんだろう。彼はホントに・・・・・・・よくわからない。
「言ったでしょう?僕はをきっとずっと好きです。人の心なんてすぐに変わるものだけど、きっと好きだよ」
「レゴラス王子、あたしは本当に・・・」
「最後に一回だけキスしてい?しばらく出来ないだろうし」
「な、何言って・・・・」
そう言ってあたしの腕をつかんだ彼から逃れようとした時には、もう遅かった。
彼はあたしの頬を軽くわしづかみにし、強く口づけて、すぐに離した。
「レゴラ・・・」
黙って顔を離した彼は、見た事のないくらい、切ない表情をしていた。
「ごめん」と「有り難う」と「好き」が混じった、そんな顔。
彼を愛おしく思った。
でも、それの1000倍、アラゴルン様を愛おしく想っていた。
大人になりつつあった。それだけだ。
いちご 第三章 おわり
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