空に唄う歌






















「永本さん、ちょっといい?」










夕子に、彼らが住むと言われた次の朝、あたしは清音君に呼び止められた。







「あ・・・うん、」







クラス中の女の子の視線を浴びながら、あたしは清音君と二人で教室を出た。



















来たのは、プールサイドだった。



























「ごめん、聞かれちゃかなりヤバイと思ってこんな遠いとこまで」



「いやっ!いいよそんな、当然だよ、うん」



「・・・ごめん、きっと萩原さんに頼み込まれてオッケーしたんだよね。住むこと。迷惑じゃない?」



「や、そんな事ないよ!どうせ親もいないし、食事だってテキトーにしてもらう予定だし」



「本当?・・ホントごめん。色々あって・・」



「うん、聞いた」



「俺と真琴、腹違いなんだ」



「・・・・うん、聞いた・・」



「一気に二人なんて・・迷惑かけますが、宜しく」



「いいよ、カップルとあたしだけよりマシだもん。清音君がいてくれて嬉しい」















あたしがそう言って笑うと、彼も笑った。







笑顔かどうかも分からないくらい、静かな笑顔だったけど、すごく、すごく綺麗だった。







初めて目の前で見た、笑顔だった。











































「ごめんね蘭子・・怒ってる?」







あたしが清音君と戻って来てすぐ、夕子が駆け寄って来て言った。







「アハ、大丈夫!怒ってないよ、全然」



「ホント?ホントに?夕子が勝手な事したって、怒ってない?」



「怒ってないってば〜それに、楽しそうだし。男2人に女2人暮らしなんて。ドラマみたい。ね?」



「・・・ホントォ・・・?よかったぁー・・」



「・・・ってゆうか、いっこ聞いていい?」



「何?蘭子」



「・・・山木君ね、夕子と付き合う前から、あたしらが二人暮らしな事知ってたの?」



「うん、知ってたよぉ〜。告白して、オッケーもらったその日の帰りに住む事決めたんだもん」



「・・・そ、れって、さぁ〜〜・・・」



「?何?」



「・・・・何でもない。山木君、きっと夕子の事大好きなんだね」



「やっだ何よぅ〜突然〜〜」































それってさ、夕子の事利用してんじゃないの?







































その時はそんな事、言えなかったけど。







あたしはきっと、いつかこの言葉を口にする時が来るだろうと、何となく確信していた。









































































5月25日。日曜日。晴れ。







彼らは、ボストンバック一つに、寝袋と服と洗面用具だけを入れてやって来た。



























「お世話になります」



「お邪魔しま〜す」



「・・・ホント、一週間でお邪魔するから」





荷物、それだけ?という目で鞄を見つめていたあたしに、清音君は本当にすまなさそうに言った。











「ごめんな永本、ホント悪い。1週間で、マジ出てくから、ぜーーーーってぇ、誰にも言わねぇから!な?」



「や、そんな嫌がってないよ。大丈夫。山木君、あたし楽しみにしてたから」



「ホントに!?あ〜〜〜よかったぁ〜〜〜〜もーホンッットごめん!!でも俺、料理は得意だから!!部活休んで毎日作るからサ!」



「アハハ、いいよそんなの、折角サッカー上手いのに。頑張って」











嫌いじゃないな、とあたしはヘコヘコする山木君を見て思った。







何より、夕子が、山木君の役に立てて嬉しそうだったから、まぁいいか〜と思った。























































「じゃぁー今日は、4人暮らしの記念日として、俺が料理に腕をかけちゃおっかな〜〜!何食いたい?」






「・・・カレイ・・」



「夕子はシチューかなぁ〜・・」



「あたし餃子食べたい・・」






「・・・お前ら、それは苛めか?統一しようよ国籍!!!」








山木君がそう叫んで、皆笑った。











上手くいきそう、何か、そう思った。



















































山木君は、ものの見事にあたし達の希望した食べ物をきちんとイタリアンにして作り上げた。









カレイのオリーブオイルのホイル焼き。シチューとサラダ。ミートボールを包んだ、洋風餃子。







彩りも見事で、あたしと夕子はただポカーンと口を開けてそれらを見ていた。











「すごーい・・真琴君て、こんな技持ってたんだねぇ・・」



「美味しそう・・・何でこんな上手いの?」



「真琴は小さい頃から母親の代わりに料理してたから、慣れてんだよ」



「そうなんだ〜〜・・・それでもスゴイよ真琴君!凄い!」



「あらっ夕子ちゃん惚れなおしちゃった〜?!ってか、俺もともと料理好きなんだと思うわ」



「ねー食べてい?お腹減った」



「永本って、意外に男らしいよなぁ〜〜美人だしお嬢様系だと思いこんでたけど」



「悪かったわね。ほっといてよ」



「アハハッ、いいじゃん、そうゆーギャップ俺結構好き!さ、食おーぜ食おーぜ〜〜」



「何よギャップって・・・いただきます」















あたしは納得のいかない顔しながらも、そのものすごく美味しい料理を食べて、もうそんなのどーでもよくなってしまった。



これから一週間、たまにこういう夕飯が食べれると思うと、幸せだった。











































「永本さんの、お父さんとお母さんは?」










大量の食事を全部食べきってから、あたしと清音君は並んで食器を片づけていた。















「お父さんはあたしがお腹の中にいる時に死んだんだ。お母さんは今マレーシアで仕事中。仕事が生き甲斐なの、あの人」



「マレーシア・・」



「うん」



「俺らんとこは・・どっちも行方不明」



「お母さんも?」



「母親は、多分俺の父親んとこに逃げた。今までは、真琴の父親と暮らしてたんだ」



「そう、なんだ、異父兄弟だもんね・・」



「俺の父親は金持ちだったけど、女グセが悪かったから多分母さんは真琴の父親と暮らしてたんだろ。貧乏だけど、一途だったし」



「清音君は、ずっとお父さんと離れて暮らしてたの?」



「いつもフラフラしてたからさ、俺の親父。母さんが心配して6歳ん時に引き取ったんだ。真琴の親父は、ものすごく寛大で、俺が一緒に住む事に、何の抵抗も覚えていなかった。大した人だよ。違う男との子供だってのに」



「清音君のお父さんは、何してる人なの・・?」



「・・・・モデル。たまにテレビも出てるよ。「清寺 音彦」ってゆうヒト」



「清寺って・・あのすごい有名なモデル・・!!嘘・・!そだったの・・!!?」















あたしはお皿を洗う手を止めて、清音君を見た。







清寺 音彦と言えば、40過ぎだというのにすっごい美形で有名な人気モデルだ。ドラマにも、バラエティーにも出てる。











この清音君の、日本人離れしすぎた美形は、彼から来てたのか。・・・そりゃこんだけかっこいい訳だな。















「本名は普通に「清音 寺彦」ってゆうんだけどね」



「あぁ・・名前入れ違えてんだ」



「寺彦って名前嫌いなんだって。」



「・・・すごぉいねー・・近くに有名人の息子が・・・!」



「別に有名人じゃないでしょ。情けない親父だよ」



「・・あーでも顔、すっごい似てるかも・・」



「・・・うん。よく言われる」



「へーそっか−・・へ〜」



「・・・・あの写真、永本さんのお母さんでしょ?」



「あ、うん、そう」



「永本さんもソックリだよ。生き写し並に。」



「あー・・うん、すごいよく言われるー」



「フ、いいじゃん。美人なんだし」























清音君はそう言って笑うと、最後のお皿を拭き終えて、食器棚に閉まった。



















こんなによく喋るヒト(ってゆっても人並みだけど)だとは思わなかった、と、とても澄んだ声で話す彼を見ながらそう思った。















「夕子達は、テーブル拭き終わったかな?」



「え?あぁ、もうとっくに終わったみたいだよ。向こうでイチャついてる。」









彼は素の顔で、ソファの上で二人で雑誌を見てクスクス笑っている夕子と山木君を指さし、言った。







「あー・・・何か新婚みたいだねぇ」



「3日前に付き合いだしたとこなのにね」



「・・・・あの、さ、清音君・・変な事・・聞くけどさ」



「?何」



「山木君っって、その、ちゃんと夕子・・・の・・」



「・・・・」



「・・・ごめん、何でもない。ごめん」



「・・・・俺には、分からない」



「え?」



「前から好きだったのかもしれないし、告白されてただ嬉しくて付き合ってみただけかもしれない。・・・けど、」








「けど、利用するような奴じゃないよ、真琴は」


























あたしは聞こうとしていた事を思いッ切り見抜かれてしまい、恥ずかしくて俯いた。


疑ったりして、すごく嫌らしい女に見られたかも・・と、あたしは焦った目で清音君を見ると、清音君はまた見抜いたらしく、



「・・そう思って当然だよ、うん。俺だって最初は驚いたし。萩原さんとすごく仲良いもんな、永本さん。当たり前だよ」





と、優しい声で言った。



















やっぱり彼が好きだと、夕子とお揃いで買ったカップをいじりながら、真っ赤な顔のまま思った。







「蘭子でいいよ」



「・・・え」



「何か、家ん中でも永本さんて言われるの慣れなくて。蘭子で、いい」



「うん、わかった。」















彼はまた静かに微笑むと、夕子達のいるソファに歩いていった。































一緒にいればいるほど、隣で話せば話す程、好きになっていってしまうのがわかる。










どうすればいいんだろう、どうするつもりなんだろう。















でも、これから名前で呼んで貰えるんだと思っただけで、あたしは口のの端をニヤリと持ち上げてしまうのだった。











































「おはよう!蘭子ッ見てみて、朝ご飯も真琴君が作ってくれたんだよぉー」










次の朝、いつも通りに起きると、夕子が駆けつけて来て言った。



テーブルを見ると、お味噌汁とご飯がいい匂いをさせながら置いてあった。







「ン・・・ホントだ」



「どーしたー?永本、朝弱いのかぁ?」



「んー・・ちょっとね」



「蘭子、低血圧なんだよね。最高80しかなかったもんね」



「マジでぇー?雪と全く一緒だな。アイツも朝死んでるもん。超低血圧」



「清音君もなのー?ってか、清音君は?」



「・・・おはよ」










夕子が、きょろきょろとすると、後ろから清音君の最高潮に不機嫌そうな声が聞こえた。











「オッス雪!お前、女の子の前なんだから少しは機嫌よく起きてこいよなー!ホイ、朝ご飯出来てんぞ」



「ん・・・」









綺麗なその顔を。とにかく眠そうに歪ませながら、彼はフラフラとテーブルについた。



















「よく、眠れた?部屋、狭くなかった?」



「全然だよなぁー雪!寒くもねぇし!快適だったよ」



「ホントー?ちょうど一個空いてた部屋なんだー。でも、ちょっと私部屋にするには狭すぎるから倉庫にしてたんだぁ」



「ごめんなーホント。おい雪、ほらしっかりしろよぉー永本も!」







全く喋らず、夕子達の会話をボーッと聞いてた私に、山木君は母親みたいにお味噌汁を差し出す。




あたしは、何だか本当にマレーシアにいるお母さんを思いだして、すごく暖かい気持ちになった。


































「蘭子ちゃん」



「へっっ??」



「ごめん・・ハンガー一個余ってない・・?貸して欲しいんだけど・・」



「あぁ、うん、いいよ。」



「ごめん・・」



「清音君、あたしより朝弱いんだね。大丈夫ー?」



「ん・何か・・光とか眩しくて・・学校着くまでにはマシになってる・・けど」



「アハッ光が眩しいって!あ、ハイ、2個でいい?」



「あぁ、ごめん・・ありがと・・」



「・・・あと、何か蘭子ちゃんて・・」



「・・・・・ん?でも・・」



「ちゃん付けしなくていいよ、そんな。「蘭子」でいいから」



「ん・・わかった・・蘭子・・ね・・・」



















ホントに分かってんのかよ、って感じの表情で、清音君はまたフラフラと自室に戻った。






美少年てのは、どんな表情してたって絵になるから、狡いものだ。




















































あたしと清音君は、そのままゆっくり準備をしていると、山木君が「俺ら先行くぞ」と夕子と二人で先出て行ってしまった。











「彼氏が出来ると、親友も冷たいモノね・・」



「ハハ、じゃ、俺らも行こっか」







目の醒めてきた清音君は、笑顔でそう言うと玄関まで行った。































二人同時に教室に入ると、やはりクラスメートの反応はそれなりにあった。















「ちょっと蘭子・・!あんた、清音と付き合い始めたの!?」



「違うよ、ンな訳ないじゃん」



「じゃぁー何で一緒に登校!??」



「違うってば、今ちょーどそこで一緒になっただけだよ」















あたしは必死になって、なるたけ清音くんに聞こえないように声をひそめて言った。













「ビビるよ蘭子。やめてよ」



「あんたらが勝手に勘違いしただけでしょぉー!」







あたしが怒って言うと、皆はハイハイと言いながらつまんなそうにする。何なんだ一体。











































「蘭子!良かったね間に合って」



「もー夕子ォ頼むから置いてかないでよ」



「ごめんね、ごめんね蘭子、あのね、今日真琴くんホントは朝練だったんだって、でも、寝過ごしちゃったからって・・」



「清音君と二人で何か緊張しちゃった」



「そうだよね、ごめんね、明日からまた一緒に行こうねっ」



「んー・・でもいいよ、夕子、山木君と朝一緒に行きたいでしょ?折角一緒に行けるチャンスだもん、二人で行きなよ」



「でもぉ・・」



「どっちにしてもあたし準備遅いし」



「じゃぁ、じゃぁこれからは4人で行こうよっあたし達待ってる事にする!ね?いいでしょ?」



「へ?え、うん、でも」



「あたしも、まだ、真琴君と二人っきりじゃ緊張しちゃうの。お願い蘭子、4人で登校しよう?」







夕子があまりにも必死に懇願するので、何かこっちが悪いこおtしてる気分になってきた。






「う、うん。じゃぁ4人で行こうか、あたし頑張って早く準備するね」



「うん、うん、蘭子、頑張ろうね」











夕子がそう言ってウンウン頷くので、あたしは思わずケラケラ笑ってしまった。































































「蘭子、帰ってたんだ」



















学校が終わって。帰宅部であるあたしは(夕子は吹奏楽)サッサと一人で家に帰っていた。


そこに何故か、部活であるはずの清音くんが制服をビショビショにして帰ってきた。



















「清音く・・!どうしたの、ソレ・・!すごい濡れてる」



「え、・・外見てみなよ。大雨なんだよ今」






あたしはそう言われて、パッと窓の外を見てみると、ザーザー降りの雨が降っていた。







「嘘、気付かなかった・・あたし帰る時晴れてたのに」



「うん、俺も学校出て5分後に降りだして。ビビった。」



「そっかぁ・・って、それより、早く乾かさなきゃ・・!風邪ひくっ」







あたしは慌てて洗面所からタオルを持ってきて、清音君に手渡した。











「・・・・この家、乾燥機ある・・?」



「あるよ、制服乾かせるから大丈夫。お風呂入る?」



「うん、ありがと」















清音君は、そう言って髪をタオルで拭くと、部屋へ戻って行った。



















「傘、借りれば良かったのに」







私服に着替えて来た清音君は、お風呂が沸くまでソファで熱いお茶を飲んでいた。





「んー・・何か面倒くさくて」



「あは、何ソレ」



「何度か、知らない女の子とかに「入って下さい」とかゆわれたけど、そんな知らない人に入れて貰うのも、何か・・」



「モテるとそぉゆとこ得だよねー」



「・・蘭子だって、モテるでしょ」



「モテないよー!あたしは。告白とか高校入ってされたことないもん」



「嘘」



「マジだよ。だから普通にモテてないんだってば」



「人気あるよ?永本さん。美人だしね。お母さんに似て」




彼は、「蘭子」と呼ぶのも忘れて、話を続ける。






「きっと高嶺の花的な存在なんだよ。憧れてるやつ、いっぱいいるよ」



「・・・そ、そうかなぁ・・」



「そうだよ」



「ち・・・・ちなみに、さ、清音君、今彼女とかいるの?」



「いないよ、俺だってそんなモテやしないし」



「それ全く説得力ない」



「ゲーノージンの息子だからって、皆寄って来るだけだよ」



「それプラスアルファに、顔がいいから余計だよ。」



「そうかなぁ・・」



「そうだよ」






















そう言ってポリポリと頭をかく彼は、こうやって話してみると、本当にイメージの変わってしまう人だった。




普通によく喋るし、長く話していると、よく笑うし。














こんな彼の意外な一面を知ってるのは、きっとクラスの女子じゃあたしだけなんだろうな、と思うと、かなり優越だった。







































「ただいまぁー!も〜〜雨すごかったよぉ〜〜」











15分くらい経ってから、夕子が帰って来た。







「お帰りィー、あれ?山木くんは?」



「サッカー部の練習無くなっちゃったから、ミーティングになって、長引いちゃったんだって。相合い傘できなくてごめんね、だって!山木くんたら」







そう両頬を寒そうに抑えながら、夕子は嬉しそうに笑った。







あたしも笑って夕子を見て、それから風呂上がりの清音君と、寒がりの夕子の為にインスタントのポタージュを作る事にした。























































「あ、夕子ちゃん。お帰り」









首にタオルをかけたまま髪の毛を拭きながら、清音君がお風呂ぁら上がって来た。




Tシャツにジーパンという、すごく普通の格好でも、風呂上がりというだけで色っぽく見える彼をあたしは直視出来なくて、思わず目を反らしてしまった。



























「あッただいまぁー雪くん!雨、大丈夫だった?」



「んーあんま大丈夫じゃなかったから今風呂入って来た」



「ゆってくれたら傘貸したのにぃー」



「いいよ、別に。・・・真琴は?今日まで部活?」



「ううん、ミーティングで長引いちゃってるんだって」



















さっきと同じ説明を、ニコニコしながら清音君に話しながら、夕子は出来上がったポタージュを美味しそうに見つめた。



















「清音君も、飲んで」



「あぁ、ありがと・・・」



「蘭子ってねぇー、こうやって、さりげなくポタージュ作ってくれるんだぁー!寒かったり、風邪引いた時とか」



「へぇ、そなんだ」



「ママがよくそうしてくれたの。そのたび、嬉しかった覚えがあるから、癖」



「良い癖だよねぇ〜・・あたしって、そうゆう良い癖ひとつもない・・」



「そう?夕子ちゃんの、そういやってすぐヒトを褒めちゃう癖、良いと思うけど?」











清音君がそう微笑んで、夕子はそれをポカンと見ながら、そうかなぁ・・と照れ笑いした。



































あぁ、本当に彼はこういう人なんだな、とあたしは思いながらポタージュをすすった。



















































「たっっだいまーー!!!ひぇ〜〜すごい雨だぜ〜〜〜!!??」











ドアがガチャガチャ開いたかと思うと、すごくデカい声と共に、山木くんが帰って来た。















「おかえり真琴君!おつかれ様!」



「ただいま〜夕子ちん★」



「もーやめてよそこで新婚ごっこすんのー見てるこっちが照れる」



「ハ、言えてる」



「いいだろーもう新婚同然なんだから、なー?夕子姫ッ」



「やだぁーもーー」



















そう言って、本当に恥ずかしそうに顔を隠す夕子を見て、皆笑った。























夕子は、本当にこういう子なんだな、とあたしは今度は夕子を見つめながら思った。







照れくさそうに笑って、顔かくして。  それだけで、愛されてしまう女の子。















あたしには、絶対なれない、そんな女の子。











































「蘭子ちーん」







あたしが、山木君にもポタージュを、と思って台所に向かうと、その山木君がふと横に立っていた。











「ハイ?」



「蘭子ちんさぁー彼氏とか作ンない訳?」



「・・・・今のとこはね」



「・・一個、失礼な事ぶっちゃけてもいい?」









彼は、本当に申し訳なさそうな顔をしながら私の顔を覗き込んできた。








私は彼の、こういっった下心のない礼儀正しさがすごく好きだった。



















「何?」



「あのさーそうなっちゃったらなっちゃったで、仕方ないと思うんだけどね?」



「うん」



「雪の事は・・雪春の事は、好きになるなよ」




































あたしは思わず黙りこくってしまった。







彼の、表情は、どう見ても冗談に見えなかったからだ。















「あいつさー彼女とか今まで何人かいたけど、全部まともじゃないんだよね」



「・・・それって、相手が?それとも、恋自体が?」



「相手もそうだし。年上とかばっか。知ってる?ここだけの話。あいつ女優の笠原礼子と先月まで付き合ってたんだぜ」















今度はただ黙ってるだけにいかなかった。あたしは、口に含んでいたポタージュを吹き出し、咳き込んだ。















「か、かさ、笠原って・・・あの!??」



「声でけぇーよ蘭ちん・・!そう、あの笠原礼子。最近何出てるっけ。あ緊急病院のドラマ?あの人」







あたしはまだ信じられす、深呼吸をしながら考えた。笠原礼子と言えば、日本の中ではかなり有名な個性派美人女優だ。







年は・・・そんな 年寄りじゃないけど、でも絶対28はいってると思う。







肌が綺麗なので有名で、元歌手だった。彼女の曲が好きだった母は、よくCDを聞いていたのを覚えてる。























「・・・何かもう何も言えない」



「だろー?まぁ親がアレだしさ。そうやって、大女優と知り合う機会があっても全然不思議じゃないけどさ」



「不思議じゃないけどありえないよ」



「まぁーな。あの人31だし」



「やっぱ30いってるよね・・・ね、清音君・・・笠原礼子の事本気で好きだったの?」



「・・・さぁ、な」



「何それ、さぁって・・好きでもないのに付き合ってたの?31の女優と」



「だからあいつを好きになんなって言ったの!」















山木君はそう投げやりに言って、作っているポタージュの続きも待たずに行こうとした。



























「山木君!!」



























あたしは、彼になら言っても大丈夫な気がした。






何となく、言ってやりたい気がした。・・から、言った。















































「あたし、彼の事2年前からずっと好きだったの。だから、もう、遅い」


































山木君はしばらく驚いた表情であたしを見ていたけど、そのうちニッと歯を見せて笑い、







「2年A組のクールビューティーの秘密を知ってしまった」







と、笑った。
























あたしは彼の冗談に微笑みを返す事も出来なくて、ただ言ってしまった事への戸惑いに震えていた。



















「大丈夫ッスよクールビューティー。俺、言ったりしないから」



「わかってる、わかってるから言ったの。でも・・・」



「まーさか、忠告した側からこんな事言われるとは思わなかったけれどもですねぇ〜人間わかりませんなぁ」










どこまでもおどけて言う彼に、あたしは思わず笑ってしまい、わかんないね、って人事みたいに言って微笑んだ。











































あんなハッキリ自分の気持ちをゆったのも久々で、何だか再確認をされたみたいで、急に恥ずかしくなった。













「2年間ずっと好きだったの」















いつかこのセリフを、繰り返す事は出来るんだろうか。 彼に向かって。





















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