空に唄う歌





























あの時、皆でバカみたいに丘の上に登った事、覚えてますか・・?











貴方は白いTシャツに、薄いブルーのジーンズを履いて、ずっと笑ってたよね。











あたしは貴方の隣で走っていたくて、すごく速い貴方の足についていくので必死だった。















やっと丘に着いて、あたし達の住む町が、世界が、全部見えて。



















「狭い世界だね」って呟くように言って、あたしに微笑んだ貴方を、あたしはまだ覚えてるよ。



















あの時、夕子が泣いた訳も、貴方がどうしてずっと笑っていたのかも、その時はまだよく分からなかったけど、



































後になって、あの時の事を思い出してみると、すごく、ものすごく、美しい事だったと思えるんだよ・・?































毎日が苦しみだった。











毎日が、喜びだった。











毎日が、青空みたいだった。















































に唄







































あたしの名前は永本 蘭子。ながもと、らんこと読みます。







今大学一年生で、必死で勉強して受かった志望校、今は楽しいキャンパスライフを満喫しています。












今回あたしが話そうと思うお話は、あたしが高校2年生だった時のお話です。



















































「蘭子ー早くしてよぉ〜引っ越しのトラック、来ちゃうよぉ」



















高校1年の春休み。2年生になるのを控えて、あたしは引っ越しをする事になっていた。



東京の、都内から少し離れた郊外のアパート。


4階建ての3LDK。高校生が住むには贅沢すぎる程の良いマンションだった。



住人は、あたしと、親友の萩原夕子(はぎわらゆうこ) の二人暮らし。



生まれた時から母子家庭のあたしと、つい最近父子家庭になった夕子は、お互いの親が偶然 同時に単身赴任になってしまったので、
親が二人暮らしする事を許してくれたのだ。







「夕子ちゃんなら気が知れてるし、あんたも日本を離れるの嫌でしょうから、一緒に住んでもらえると安心だわ」


というのが、母の言い分だった。















ある日、夕子の父親が、あたし達の引っ越しの日に来て言った。



「蘭子ちゃんのママ、マレーシアでしょ?あたしは単身赴任ってゆったって、九州だもの。何かあったらすぐ飛んで来たげるから、
安心してくださいってママに伝えてちょうだい?」










オカマ口調の(ってゆうかオカマの)夕子の父親は、何年経っても変わらない笑顔でそう言ってくれた。



















あたしは母が大好きだった。夕子のお父さんも、とてもとても好きだった。











離れる事も寂しかったけど、高校生で、友達と二人暮らしってゆう事のが、楽しみだったから平気だった。



























「楽しみだねっ蘭子!高校生で、二人暮らししてる子なんて、この世であたしらくらいじゃない?」







引っ越しのトラックの中で、あたしと夕子は狭い中二人で寄り添って、クスクス笑いながら話した。





"そんな事は無いだろう"と思ったけど、そういう夕子の可愛い発想があたしは大好きだったから、ニッコリ笑って頷いた。























































「蘭子、夕子〜〜!あんたら、二人暮らし始めたってマジ!?しかも高級マンションに!!」







新学期が始まって、クラスメートの子2,3人が駆け寄ってそういって来た。







「よく知ってるねぇーそうだよ」



「昨日からなんだ」



「ゲ〜〜マジずるい!!遊び行ってもい?!ってゆうか家出した時匿ってv」



「何でまた二人暮らしなの〜〜?」



「あたしらのパパとママ、同時に単身赴任しちゃったの」



「え〜〜どこにぃ!?」



「蘭子んママはマレーシア。あたしのパパは長崎」



「え?でも、夕ちゃんとこ、お母さんは?蘭ちゃんは母子家庭って知ってるけど・・」



「離婚したの。1ヶ月前。ママに逃げられちゃって」



「うっそマジで・・!!浮気・・とか!?」



「うんそう。前から何人かいたんだよ。彼氏が」



「彼氏ぃ???」



「知らないの?アンタ。夕ちゃんとこのお父さんニューハーフだって」



「あたしも見たことあるー!ハンサムで優しくて、超いい感じだったー」



「でしょー?自慢のパパなのーv・・浮気は悪いと思うけどぉ」



「へーそれで二人暮らしかぁ・・マジで羨ましい」



「今日、おそろいの食器買いに行くんだよねっ?夕子」



「へ〜〜〜〜」























皆が本当に羨ましそうにあたしらを見てくるから、何だかすごい優越感があった。







二人暮らしする事が、すごくすごく素晴らしい事なんだと思った。

















































夕子にはそのころからずっと好きな人がいて、帰り道に、その好きな人の部活姿を見て帰るのが日課になっていた。









彼は山木 真琴(やまき まこと)といって、サッカー部のエース。誰からにも人気のある笑顔の優しい人だった。















「ごめんね蘭子。いつも付き合わせて・・5分だけでも見て帰りたいんだ」



「いいよ、全然。かっこいいもんね、彼」



「でしょぉ?でも山木君モテるからねぇー」



「いいじゃん、きっと夕子が毎日見に来てる事知ってるよあの人」



「そうかなぁ〜〜・・ね、蘭子には好きな人とかいないの?」



「・・・いないよ」















































ホントは、いたけど。



















そのヒトが好きだなんて、夕子にはあんまり言いたくなかった。































それくらい、あたしの好きな人は「変わった」ヒトだった。











































「永本、俺今日部活あるから、鍵閉め頼んでいい?」










放課後、日番だったあたしは、突然そう彼に言われてパチクリとした。







「へっ!?え、あ、うん!いいよ、やっとく!」



「ごめん、ありがと」







彼は、そう笑いもせずに言うと、サッサと行ってしまった。















彼の名前は清音 雪春。きよね、ゆきはる、というとても綺麗な名前を持つ、とても綺麗な顔立ちの青年だった。























彼の事を好きになってしまったのは去年の夏だった。



あたしは帰宅部で、彼は水泳部だった。











彼は無口で、でもその容姿のせいでとてもモテていたが、とにかく喋らないヒトだった。



静かに笑い、静かに話し、授業中は大抵寝ていて、でも成績はトップクラス、という不思議なヒトだ。







男の友達は多いけど、女の子と話してるとこはあまり見なかった(告白はしょっちゅうされてたけど)彼と、初めて話したのはプールサイドだった。







































ある日の放課後、すごく綺麗に泳ぐ彼を見て、あたしは思わずプールサイドまでフラフラと吸いこまれるように行ってしまい、じっと見入っていた。






















すごく早く泳ぐのに、スローモーションみたいに見えたのが印象的だった。



華奢な胸板とか、綺麗な顔にしたたる水しぶきとかがすっごく絵になっていて、あたしは彼が気付くまでずっと見てしまった。































「・・永、本さん?」






泳ぎ終わったのか、彼は少し驚いた顔で、プールに入ったままあたしの名前を呼んだ。











「どうしているの」



「ご、ごめん、」



「や、別にいいんだけど、何で」



「・・・ご、めん、何か、見とれちゃったってゆうか・・何てゆうか・・」



「・・・・」



「ごっごめんね、帰るね!!ごめん、バイバイっ」



「あ、待って永本さん」



「・・え」



「俺ももう帰るんだ。一緒に帰ろう」





「・・・・・うん」



































あたしは顔を真っ赤っかにしながら、着替えて来るから、と更衣室に走った彼をボゥッと見つめていた。











「一緒に帰ろう」という言葉があまりにも彼と合っていなくて、それがもどかしくて、何だかすごく恥ずかしかった。































「お待たせ、帰ろう」



「うん・・」















その日はすごく夕焼けが赤かった。



あたしは彼の端整な横顔を、チラチラ見るので精一杯で、後は何を話したのかとかは全然覚えてない。






少しまだ湿った髪の毛と、前髪だけ乾いてサラサラ揺れてたのだけ覚えてる。

















多分一度も、彼は笑わなかったと思う。



































それからもう話す事もなかったけれど、ずっと彼を意識し出してしまい、しまいには「好き」なんだと気付いた。












彼のモテ方は結構スゴかったし、夕子以上に手の届かないヒトを好きになってしまった気がして、なかなか言い出せなかった。




























































蘭子の容姿を、一言で言うと「美人系」だ。と、ある日夕子に突然言われた。



昔から友達にも知り合いにも「蘭子は美人だ美人だ」と言われ続けていたから、中3ぐらいでそう思いだしたらしい。


よく聞くと失礼な話だ。






でもちょっと違った種類の美人らしい。





私の母親は、娘から私から見ても「美人」だ。


でもその美人さは、何て言うか、「顔立ちがとても整っている」って感じで、キラキラしてる芸能人みたいな美人ではないのだ。



だから、母親と生き写しだと言われている私も、そういう感じの美人。らしい。







夕子はそう私の顔をじっと見つめながら、「でも結局は美人なのよ。あたし蘭子みたいな顔になりたかったもの」と羨ましげに言った。





















私は、夕子みたいな可愛い子に憧れていたんだけどね。















































夕子はいわゆる、「クラスに一人はいる、明るくて雰囲気の可愛い女の子」だった。





鼻は丸くて小さいし、目も細いけれど、変にあか抜けていて可愛いのだ。


白くてツルツルした肌とか、笑うと出来るえくぼとか、「男の子が好きそうな女の子だなぁ」と思わせる所がいっぱいあった。







あたしはそういう夕子がものすごく羨ましくて、夕子みたいに笑えるようにとコッソリ笑顔の練習もしたくらいだった。











その事を、大学生になった今、夕子に言ったらきっとまたあのえくぼを見せて笑ってくれるだろう・・。


























































「蘭子、・・あのね、その、山木君、今度連れて来ていいかなぁ?うちに・・・」









学校から帰ってすぐ、家に着くと同時に夕子が顔を真っ赤にしてそう呟いた。












「・・・・どゆこと?」



「・・・付き合う、事になったの・・・・」



「えーーーー!!?マジでぇ!すごいじゃん夕子!」



「や〜〜もうそんな大きな声でゆわないでぇ恥ずかしい・・!」



「よかったねぇ〜〜で?何でうちに?」















「男を連れ込むのは厳禁」っちゅうんが二人暮らしをする条件のひとつだった。



付き合ったからって、別に連れ込む(?)事ないじゃん、とあたしはモジモジしている夕子を見つめて思った。























「・・・お願い蘭子ォ・・・」



「いや、いいんだけどさ、ママ達にバレさえしなきゃ。でも何でまた。深刻そうだよ」



「・・・・それがねぇ・・彼、・・・・家 失くしちゃったの。」



























さすがのあたしも硬直した。家を、「失くす」?











































「それって・・一緒に住むって事?そんなのママ達にばれたら一体どうすん・・」



「一週間だけでいいの!彼ね、パパがリストラされちゃったんだって。それでね、担保入れてたお家がとられちゃったらしくて・・」





「へ、ぇ」



「それでね、それでね蘭子、彼、お母さんは何か他の男のヒトのとこに逃げちゃったらしくて、お父さんも・・」



「わかった。それで住む場所がないんでしょ。それで住む場所見つかるまでいさせてくれって事でしょ。」



「そう・・!そうなの、ねぇ蘭子、いいでしょう?もしパパ達にバレたら、ぜーーーんぶあたしが悪いことにするから!!絶対!」



「・・・でも蘭子、よく考えてよ、女二人ん中に男の子が・・」



「・・・・それが、ね、もう一人・・・いるの」







あたしが、ハァ?という顔をすると、夕子は更に縮こまって、モジモジと話を続けた。















「同じクラスの、清音君。あの子、山木君と異母兄弟で、今まで一緒に住んで多らしいの」































カシャン、とあたしは手に持っていた鍵を落とした。







でもそれすら気付かなかったくらい、驚いていた。







清音?あの清音??でも、そんな珍しい名前他に無いし、第一うちのクラスには一人しか・・・・



















「知ってるでしょ?あの、すごくかっこいい清音君。下の名前は、何ていったか・・」



「雪春」



「そう!雪春!・・・でね、そのぅ・・彼もって、山木君がいうんだけどぉ・・・」



































あたしはまた3秒程硬直した後、ポンッと夕子の肩に手を置いて言った。





































「そういう事ならもう仕方ないね!!あたしも共犯になる!・・・清音君に、あっ・・山木君と、清音君に、来て貰おう。」



















あたしがそう力強く言うと、夕子は女神を見るとうな目であたしを拝んだ。















































今考えると、若かったから出来た決断だと思う。我ながら、よくやったもんだ・・。















































こうして、次の週から、彼らはやって来る事になった。








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